「再会⑬。」
僕が大学生の頃、ちょうどJR京都駅は大改装中で、工事現場のような駅だったような気がするが、
あまり覚えていない。
僕は人に別れのあいさつ…「バイバイ」とか…を言うのがとても苦手で、
「うん、まあ」みたいなことしか言えなかった。
それもあとで結構後悔する。
本編【春 Primavera】に登場する演劇部部長オータニと、何一つ積極的になれずに鬱々と大学生活を送る「僕」が、京都の飲み屋で再会し、色々話したというスピンオフ。
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僕が大学生の頃、ちょうどJR京都駅は大改装中で、工事現場のような駅だったような気がするが、
あまり覚えていない。
僕は人に別れのあいさつ…「バイバイ」とか…を言うのがとても苦手で、
「うん、まあ」みたいなことしか言えなかった。
それもあとで結構後悔する。
学生の頃の痛みって、学生が終わる頃にすっかり癒えて
何か別の痛みによって塗り替えられてしまうものだと思う。
でも何だかそれがもったいなくて。
忘れてしまう自分がいやで。
僕はもちろん、今何かをひきずって、
いつまでも傷ついているわけではなく、
それどころかどんなに傷ついたとしても、
寝て起きればすっかり元通りになっている。
何にも本気になれなくなったからだろうか。
上手に生きていけるようになったからだろうか。
多分違う。
僕は知ったからだ。たくさんのことを。
オータニが僕に語ったマキタの本当の気持ちは、
今ではもう忘れてしまったけれど、
とにかく僕とマキタはどことなくよく似ていて、
しつこく、
諦めが悪く、
根に持った。
何かもう、色々気を遣ってイヤだったな。
技術が低く、まだ自分の思っていたことを
漫画にちゃんと形にできないのがもどかしい。
高校の頃は、気を遣っていそうで近しい人間には全く遠慮がない、
心の中でゴリラのようだったオータニが、
時間を経て妙な気を回し、自分の罪悪感を消そうとする様子は
少しショックだった。
青春てなんだろうな。
僕はただやっと思い出になった僕の思い出を、
とうとうと思い出話として話したかっただけなのに。