2024.3.16
「再会⑤。」
気を許せば何でも言うようになり、イライラも直接ぶつけたりもする。
マエダはつかみどころのない鰻のような男で、
何となく僕自身との相性はよかった。今思えば。
本編【春 Primavera】に登場する演劇部部長オータニと、何一つ積極的になれずに鬱々と大学生活を送る「僕」が、京都の飲み屋で再会し、色々話したというスピンオフ。
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気を許せば何でも言うようになり、イライラも直接ぶつけたりもする。
マエダはつかみどころのない鰻のような男で、
何となく僕自身との相性はよかった。今思えば。
みんながみんなつまんないことを勘違いして、
誰が誰を好きとか嫌いとか、そんなことばかり考えて、
何もかも上手くいかず、誰も幸せにならず、
でもまあ一生懸命だったんだよ。
ねえ。
バカなりに。みんな。
僕は全く誰からも好意的に受け入れられるということもなく、
いつも勝手に孤独を気取って自ら仲間はずれを買って出ており、
そんな僕を周囲は内心バカにしつつも、
腫れ物のように扱い、面倒なことにならぬよう注意されていた。
いつも蚊帳の外にいるからこそわかることもある。
オータニが一人で俺に会いに来るわけがない、
そんな卑屈なことを僕は考えていた。
結局僕は、浪人の時にマキタの所属する劇団の芝居を見に行って以来20数年間、
一度もマキタに会ったことはないし、電話も、手紙のやりとりもしたことはない。
あれくらい仲良かったなら連絡くらいとればいいのに、
と同級生には呆れられたものの、僕は強情で自分からは絶対にコンタクトは取らないと決めてしまっていた。
マキタはいつも冷静なようでいて僕と同じく妙なところが強情で、
僕はマキタのそんなところが好きだったのだ。