「再会①。」
大学に進んだ後、一度だけオータニに会ったことがある。
名古屋で女子大生になったオータニは、髪が短くなったこと以外は
高校時代のゴリラのままで、
でもゴリラの癖に何だか、
何だか、
何だか。
もう。
本編【春 Primavera】に登場する演劇部部長オータニと、何一つ積極的になれずに鬱々と大学生活を送る「僕」が、京都の飲み屋で再会し、色々話したというスピンオフ。
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大学に進んだ後、一度だけオータニに会ったことがある。
名古屋で女子大生になったオータニは、髪が短くなったこと以外は
高校時代のゴリラのままで、
でもゴリラの癖に何だか、
何だか、
何だか。
もう。
オータニはマキタの幼馴染で親友だ。
マキタが寡黙な、何を考えているかよくわからないところのある
表情の薄い人間だったのに対して、
嘘のつけない、顔に全部出る人間だった。
僕はマキタも来ると思ってちょっとびくびくしていたのだ。
マキタはいつまでも特別な人間だった。
好きとか嫌いとか言う気持ちは既に忘れていたと思うが、
でも特別だったのだ。
きっと今なら、友人が結婚する、そんな情報もSNSやネットを使ってすぐに耳に入るんだろう。
だけれど僕は、聞かなければ知りようのない、
無知の時代をノスタルジーと共に思い出し、「あの日に帰りたいな」と思ったりする。
人間が冷たくなったとは特に感じないが、
知りたいことは知るのが難しく、
知りたくないことばかり目にする、耳に入るのは、とても苦しい。
僕の聞きたくなかった話は、
オータニからはっきりと語られる。
はっきりと語られたからこそ、僕は傷つき、
今でもこうして覚えている。
読んでいる人にはさっぱりわからないとは思うものの、
このオータニとマキタ、僕とマエダの特に何でもないどうでもいいお話は、
「誰もが誰にも話さなかった結果」ということがテーマだ。
毎日ネットのニュースやSNSを見ていると、
驚くことがものすごく少なくなった気がして不安になる。
僕はつまらないことでいつも驚いていた。