「セキグチ。」
漫画やアニメのように女の子がこちらを向いて微笑んだ瞬間に対してドキッとしたことはほとんどない。
いつもドキドキするのは人が難しい局面に直面し、虚勢を張る余裕もなくなった時の真顔だ。
僕は素の真顔を一番美しいと思う。
年齢や経験と共に段々素の顔を抑え込む能力が高くなっていく。
ちらりと見せたその俯いた表情を、僕はいまでもはっきりと覚えている。
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漫画やアニメのように女の子がこちらを向いて微笑んだ瞬間に対してドキッとしたことはほとんどない。
いつもドキドキするのは人が難しい局面に直面し、虚勢を張る余裕もなくなった時の真顔だ。
僕は素の真顔を一番美しいと思う。
年齢や経験と共に段々素の顔を抑え込む能力が高くなっていく。
ちらりと見せたその俯いた表情を、僕はいまでもはっきりと覚えている。
必ずしも元気な時に元気な絵が描ける、描きたいわけでもなく
不安な気分が満ちてくると明るい絵を描きたくなったりするもので。
モーツアルトの天才伝説の一つに、
「人生で最も幸せな時期に最も暗い曲を、
最も悲惨な時期に最も明るく幸福な曲を作った」
というものがあり、僕はその話が大好きなんですが、
なんのことはない、
近年の研究で単に伝わっていた作曲時期が間違っていただけだと判明しました。
知ることは大事ですが
知りすぎると夢は小さく小さくなってゆきます。
声をかけても何もできなかった。
という無力感や絶望感をみな覚えているだろう。
それでも声をかけるのだ、やっぱり。
何もしなかった罪悪感のがずっと忘れられず、
ことあるごとに自分を苦しめることを
一度で学習するから。
セキグチはいつも写真部加藤と別れたりくっついたりを
繰り返し、周囲の僕らはまたかという目で見ていた。
そういう人いるね。
結局その後どうなったのかは知らない。
僕は加藤が嫌いだったんでセキグチの味方をした。
頼りにならんと怒っていた。味方なのに。
幸せになっているといい。
僕はまあ、世の中の全てを憎むほどには不幸でなく
それなりにだらしなく生きているよ。