「ムロイとセキグチ。」
自称「傷つきやすい人」は
たいていの場合、
自分が誰を傷つけているのかについては意外と鈍い。
ほんの目の前の、誰でも見えてるようなことにばかり
気を取られ、遣わなくてもいい気を使い、
勝手に疲弊している。
それを人に理解しろというのは無理がある。
自己紹介に自分の弱さを強調する人間など
多分僕を必要とすることもないし、僕が必要とすることもない。
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自称「傷つきやすい人」は
たいていの場合、
自分が誰を傷つけているのかについては意外と鈍い。
ほんの目の前の、誰でも見えてるようなことにばかり
気を取られ、遣わなくてもいい気を使い、
勝手に疲弊している。
それを人に理解しろというのは無理がある。
自己紹介に自分の弱さを強調する人間など
多分僕を必要とすることもないし、僕が必要とすることもない。
京大の近くにあった喫茶鞠小路ももうない。
おしゃれなような、そうでもないような、
居心地のよいカフェだった。
先輩と行った時のマッチがまだ思い出箱に入っている。
昔は大体の喫茶店に、その店のロゴが入ったマッチが置いてあった。
もちろん100円ライターはあったけど、
僕はマッチで先輩のタバコに火をつけるのが好きだった。
自分の弱さとか自分のいたらなさとか、
自分のことばかり考えていた僕は、
マキタがどんな人間だったのかも
ほとんどわかっていなかったと思います。
そりゃあ信用されないですよ。
どんなに真面目だろうと。
僕が真面目なのとマキタが人間をどう見ているかは
何の関係もないことですから。
人前だとどもるとか赤面するとか汗が出るとか、
そういう表面的なことがコミュニケーション障害ではない。
自分のことを自分の言葉で語れず、
人の話ばかりしているやつは、
どんなに愛想がよくて善人ヅラをしていようと
人間関係は作れない。
燃え尽きることも、
やり過ごすことも出来なくて、
ただ燃え残った小さな火種のように
くすぶり続けた僕の灰色の高校生活を
チカチカと
遠くで明滅する灯台
くらいの明るさで
照らすものがあるとすれば
それは。
それは彼氏のこと?
と言えば嫉妬する男になる。
それは僕のこと?
と言えば自意識過剰な男になる。
先輩はずるい。
結局それが誰のことか、
僕にはわからない。
わからせないように、
でもわかれと
先輩はいつも言外に言う。
「つきあう」とか「別れる」とか
何もわかっていないころ、
なんだか不穏な冷たい空気が流れる、
元恋人たちのやりとりを、
僕はなんだか大人っぽいなあと
ドキドキしながら眺めていた。
写真部加藤は女子に人気があったが、
結構色んなことをやっていて、
「結構色んなことをやっている」人間の持つ、
怪しげな空気を既にまとっていた。
「きらわれもの」と「いじめ」は全然違う話だ。
ちゃんと自分の話を出来ないやつが
敏感な防衛本能で開き直る様子は
やっぱり不愉快だ。
だから嫌いでいたくないんだ。
だから「お前が嫌いだ」とはっきり言うのだ。
蹉跌……つまづくこと、うまくいかないこと。
うまくいかなかった。だから。
僕はわざとらしく傷ついてみせ、
傷ついた自分を更にわざとらしく人前にさらすことで
もしかしたら同情してもらえるかも、
などと思った。
人を好きになる、
その好きになり方を間違ってしまった。
十字架。
なんて美しいものではない。
ただのガキだ。
ガキは、みにくい。
当時の日記を開けば、
先輩に嫌われるようなことをして
嫌われた自分のことばかりが並んでいる。
ついに僕は
先輩の過去を知るほどの距離には近づけなかった。
でも僕は知っていたさ。
いきなり君が君だったわけじゃないことを。