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1:2024.4.1 (2:41)

「春はいつも憂鬱で。」

春はあんまりいい思い出ないなあ。
そんなこと言ったら春夏秋冬どれにもいい思い出なんかなかったかもしれないけれど。

実はお花見もほとんど行ったことがありません。

鴨川デルタの近くで美術サークルのお花見新歓コンパとかあったんだけど、
早速上回生が酔いつぶれてそこら中に嘔吐してるのを見て
げんなりした記憶はある。

漫画の「先輩」はそういう場所には絶対来なかった。
でも先輩が趣味でやってた生け花はよかった。

酔っ払いもいないし騒々しい音楽もない。
ただちまっとお花がそこにあるだけの空間だった。

2:2024.4.2 (22:17)

「凛。」

マキタと同じクラスだったのは2年生だけで、
3年になると別々になりました。

いやあ残念残念、なんて美術部ではおどけていましたが、
どこかでちょっとほっとしていました。

僕は自分をもてあましていました。

ああ僕は迷惑だ、迷惑な存在なのだと
勝手な独り言を周辺に振りまいて
その癖どこかでマキタの視界に入ろうとする浅ましさを
許せない、

そんな自家撞着にくたびれていました。

山から吹き下ろす強い風が
僕たちの会話をいつも途切れ途切れにしました。

4:2024.4.7 (22:31)

「いつも後ろを歩く理由は。」

「なんでいっつも後ろ歩くんや。」
と訊かれた時、僕は
「歩くの遅いし先頭は不安や。」
と答えた。

それも本音だ。
でも本音はもう一つある。

マキタを見ていたかったからだ。
もちろんそんなことは言えない。
言ってしまってもよかったけれど。

マキタは知っていた。
僕もマキタが知っていることを知っていた。

僕たちはその川辺を黙って歩いた。

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