



僕はぬいぐるみに名前をつける方ではなかったし、
また目鼻がとれても割と平気というか、
布切れでも残っていればそれを愛せる人間でした。
ただし、目鼻のないイモムシのような布切れを
肌身離さずもっている僕を、
両親は相当おかしいと思っていたらしく、
親戚の医者に相談したことあるとも言っていた。
こう描くとセキグチととしえちゃんが
極悪な人間に見えるけれど、
そんなに怒っていたわけでもない。
むしろ漫画にはあまり描いてない、
近所の里芋みたいな男児たちが勝手にやってきて
あらゆるものを盗んでいく、それが一番いやだった。
僕からだんだん物欲が減っていったのは
そのような経験からだと思う。
マキタがたまたま休み時間に
「あれええなあ。ほしいわあ。一個しかないからすぐなくなるわ」
とオータニと話してて、
その瞬間に僕は学校を飛び出してジャスコで
そのぬいぐるみを買ってきた。
もちろんマキタに喜んで欲しいと暴走したのも確かだが、
ピンと来たぬいぐるみはその時点で買わないと、
顔が違ってたりなんだったりで、二度と出会えないことを
僕はよく知っていたからだ。