ハセガワは幼少期から、庭で集めた雑草を広辞苑に挟んで押し花を作り、びっしりと並ぶ文字を日暮れまで眺めていた。高校生になっても同じことを続けて周囲から浮いていたハセガワは、人と競い合うこと全般に強い苦手意識を抱いていた。絵や音楽などの芸術は競争と無縁だと考えていたが、何にでも優劣や勝ち負けがついて回る日々に息苦しさを感じていた。 キャンバスに向かうハセガワに対し、マキタは言っている意味が分からないとしつつも「まあええんちゃう」と声をかける。ハセガワにとってその何の変哲もない一言は、勝ち負けのない関係性の中で心に残る言葉となった。ハセガワは33年が経過した現在でも、マキタからかけられたその言葉を自らの口癖のように使い続けている。


