2020年12月87P
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「踏み込まなければならない。」
マキタは「遠くで見ていた憧れの美少女」ではない。
仲の良い友人だった。
相談にのったり、みんなで騒いだり、
そんな風にしていれば、
僕はいいひとのままでいられただろう。
でもそれでは不満な自分に気がついてしまった。
気がついてしまったら、
嘘をつき続けることは出来ないのだ。
「孔明の罠。」
やられた。
「平凡。」
うまく描くにはよく見ないといけない。
でもまじまじとよく見るわけにもいかない。
漫画やイラストを描く人は、
大抵この右ななめ45度ばかり描くのだけれど、
僕はいつまでたってもこの角度が苦手だ。
君の正面は
僕のいる場所ではなかったから。
「謝罪など意味はない。」
罪を犯せば罰を受けねばならない。
僕のしたことは法律に照らせば重罪ではない。
ただ、あの沈黙は僕にとって
とても重い罰だったのだ。
いっそ罵ってくれればいいと
思うのは、そんなのは、
身勝手なわがままだ。
ということを僕は悟る。
その永久に続く沈黙から。
「俺は忘れない。」
ちゃんと言い方を考えるようになったり、
感情を爆発させなくなったのも、
こうしたことの積み重ねであって、
人から逃げていたら結局
外ヅラをごまかすことだけ覚えて
中身は子供のままだと僕は思う。
陰湿なのはいやだよ。
単純で、明快な方がいい。
「遠近感。」
「距離感」について考えることは多いですが、
適切な距離なんてもう僕にはわかりません。
ただ、アニメで繋がるとかキャンプで繋がるとか、
僕はそんな繋がりを繋がりだと思っていません。
繋がってないと不安、という病気は、
そろそろちゃんと病気だと思った方がいい。
「ほんとはね。」
僕は教室の風景をほとんど描かない。
ほとんど教室にはいなかったからだ。
朝のホームルームが終わると、
僕は一目散に近くの市立図書館や美術室に逃げた。
だから部活や放課後の活動しか描くことがない。
そんな得体のしれぬ存在の僕が
人気者と一緒にいたり、写真をとられたりすると
一つの事件だった。
そういうことをわかっていて、
オータニは僕を嫌がらなかった。
その代償して、裏では色々と嫌な目にあった。
もうそれも思い出さない。
オータニはいいやつだ、とだけ今は思う。
「横断。」
引っ越そうと思えば広いところへ引っ越す機会はいくらでもあったが、
我々はこの、自分のプライベートが全く保護されぬ
狭い部屋が気に入っている。
別に誰かに見せるわけでもなく
我々のコントは粛々と続く。
「トオイヒビ。」
マキタは白かった。
まっしろだった。
農道には街頭がなかった。
まっくろだった。
あの日、空は赤かった。
あたりは黒かった。
マキタは白かった。
その光景は、
記憶に強く刻まれた。
夏。
「人間とは。」
僕がずっとずっと知りたかった、
虚無がきっとこれだ。
「ぱぴぷぺ!ぴくちゃん。」
目の前で人が狂っていくのを見ていた。
怖かったのと同時に、ちょっと羨ましく思ったことも覚えている。
もう人を指して「狂っている!」と言うことは出来ない。
自分が狂っているのかいないのか、
自分でもわからなくなってしまったからだ。
「楽屋前。」
高校一年生の観劇会か何かで演劇部の舞台を見て以来、
僕はすっかり演劇に……というよりその時舞台に出ていたマキタに
夢中になってしまった。
なので演劇部の発表会的なものには
まめまめしく足を運んだりしていた。
楽屋まで行って写真撮ろうよ、と言ったこともある。
多分こんな会話があって、断られた。
僕は芸能人やアイドルを好きになったことがない。
でもきっとファンというのは、
こういう行動をとるんだろうなとは思う。
僕は身近な人間しか好きにならない。
手の届かない存在に遠くから憧れることはない。